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「ヒバリ」
のんびりした声。
野球部の。
エース、なんて呼ばれている。
野球馬鹿。
「何か用なの、」
「いや…最近、忙しいのな」
「忙しいよ。君はどうなの?部長になったんでしょ」
「あぁ、うん。そうなんだよな…結構大変だぜ」
笑う顔。
穏やかで。
優しい。
雨のような、笑顔。
「ヒバリにあんま会えないのが何か、な」
「僕は別に平気だけど」
「…ヒバリ」
「何なのさ、さっきから」
「キスして、いいか」
「…、っな」
あ。
しまった。
書類のサイン。
違う、そんな事じゃなくて、否それも重要なんだけど、それより。
顔が。
熱い。
あぁ、嫌だ、絶対に赤くなってる。
嫌だ。
もし僕が拒否したら、優しいこいつはきっと引き下がる。
それは嫌。
物言いたげな唇。
あの唇に触れられるのは嫌じゃない。
ああもう、どうしたっていうんだろう、この僕が!
最強の風紀委員長。
群れるのは嫌い。
群れは咬み殺したくなるくらい嫌い。
その筈なのに。
どうして、どうして此れは―
「ヒバリ」
こんなにも僕を惑わせるんだろう!
「…すれば、いいじゃない」
…優しいこいつは、やっぱり優しいキスをする。
合わせられた唇の柔らかさに少しだけ戸惑いながら、薄目を開けたらこいつも僅かに開けていてなんだか恥ずかしくて、こいつと群れるのはそんなに嫌じゃない、なんて。
最強とか無敵とか呼ばれる僕をここまで腑抜けにするなんて、本当はこいつが一番最強なんじゃないか、なんて。
「…っん」
大きな身体に抱き締められながら、想った。
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