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笹の葉、さらさら、
廊下で。
「沢田!」
「ふぉあ、はいっ!?」
「…後で応接室に来なよ」
「…は、はい」
擦れ違ってから、ある事を思い出した雲雀は足を止めて擦れ違った相手――沢田綱吉――を呼び止めた。
呼び止められたほうは驚いて一瞬奇声をあげ、それから告げられた言葉に訝りながらも返事をした。
その返事に満足したふうに『にやり』と笑い、雲雀は歩いてゆく。
(…可愛いなぁ、雲雀さん)
他の人物なら決して思わないだろう感想をその笑顔に持って、今日はどんな用事なのだろうかと考えながら綱吉は残りの授業を過ごした。
「それで、ええと、今日って何かありましたっけ?」
「今日じゃないよ沢田。あした」
「…明日…あ、七夕ですか?」
「そう。沢田にしては冴えてるね」
「それ、酷いですよ雲雀さん。流石の俺でもわかります」
「そう?忘れてたみたいだけど」
「うっ…で、でも忘れてただけですよ」
放課後、応接室に足を運んだ綱吉は雲雀に尋ね、答えてから雲雀は明日の夜にまた来るよう言った。
「七夕、やるんですか?」
「うん。竹はないけど、その代わり笹があるから」
「あー…笹の葉さらさら、だからそっちのほうが良いのかも知れませんね」
「そうだね」
雲雀が淹れた紅茶を飲みながらまったりと過ごすこの時間が綱吉は好きだった。
彼のことをあまり好いていない友人たち(特に獄寺隼人)からは気の毒そうな視線を向けられたが、案外悪いものでもないのだ。
何か彼の気に障ることさえしなければ、紅茶は美味しいしソファは柔らかく気持ちがいいのでなかなか離れがたいものがある。
「じゃあ…短冊を用意しないといけませんね」
「そうだね。それは草壁に用意させてるし、気にしなくていいよ沢田」
「…職権濫用じゃ」
「気にしなくて、いいよ」
「…は、はい…」
「…あ、あの、…雲雀さん?」
「なに、沢田」
「綱吉って呼んでくださいよ…じゃなくて!屋上が竹林みたくになってますよ!」
「はい、パンダ」
「雲雀さんが着てください…」
夜8時。
余りに遅い訳ではないが、中学生の外出時間としては少しばかり遅い。
そして、学校の屋上である。
「曇ってますねー」
「そうだね。でも別にいいよ」
「晴れてたら良かったんですけどね」
「天の川かい?どうでもいいよ」
さわさわと足下で揺れる笹に、しゃがみ込んで飾りを結わえ付けていた雲雀が、綱吉の言葉に顔を上げて立ち上がる。
「どうでも良かったんですか?」
「そう」
それから、隙間を見つけて座っている綱吉の隣りに並んで座った。
「だって君といたかっただけだもの」
そう言って悪戯っぽく『にやり』と笑った雲雀に、かなわないなと思いながら、綱吉はくすりと笑った。
「…あーもう!大好きです雲雀さん!」
「知ってる。僕は君を愛してるよ、…綱吉」
「狡い、恭弥さん」
「言った者勝ちって言葉知ってる?」
「それでも狡いー!」
そんなふうに他愛なく笑いながら、七夕の夜はゆっくりと更けていった。
お星様、きらきら。
空から、みてる。
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