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――俺は一体どうしたら。
花井梓は悩んでいた。
理由は目の前にいる恋人。
いや、目の前って言うかまぁ、腕の中。
阿部が着ているシャツとジャージは若干だぶついていて、それからすっぽり花井の腕におさまっている。
だぶついているのは花井の持ち物だからで、彼の服を着ているのは突然雨に降られたからだ。
風邪を引くからとシャワーを浴びさせたのが問題だったのかもしれない。
(いやいや、それは別に問題じゃねぇだろ俺)
思わず心の中でセルフツッコミをいれる。
けれども問題と言えば問題なのだ。
阿部の濡れた髪からはほんのりシャンプーの匂いがするし、温まってほてったんだろう肌は僅かに赤みを帯びているし。
…そもそも花井自身思春期であるのだし。
妙な気分になっても仕方がない。うん。
無理矢理納得しながらなんとか意識を逸らそうとする。
ああ顔が熱い。
「花井?」
「うぉあ、なっなんだよ!?」
「…何キョドってんだよ…」
「や、なんて言うか、まぁ…うん」
「変な奴」
こてん。
阿部が花井の胸に頭を凭せかける。
ちなみに今の状況は、ベッドに背中を預けて座っていた花井の足の間に阿部がおさまっている感じ。
他にも座るところあるだろちくしょう可愛いなぁもう。
「はないー」
「んー」
「お前さ、今日誕生日だったよな」
「おう。なんかくれんのか?」
「………」
「嫌そうな顔するなよ…」
学校では『そんなことより部活をやれ』と一蹴されただけに、阿部のほうから振られた話題にうっかり期待してしまった。
腹癒せ替わりにぎゅうっと抱き締めると焦ったような声がしたから、まあ良いかと思う。
「阿部ー…ほんとに何にもないのかよ」
「なんか欲しいのかよ」
「欲しいって言うかさ…せめて一言」
じいっ、間近にある阿部の顔を花井が見つめる。
見つめているうちに徐々に阿部の頬が赤くなってきて、つられて花井も赤くなる。
…あれなんかむちゃくちゃ恥ずかしくないかこれ。
「あ、」
「たんじょー、び」
「………」
「おめでと、」
あずさ。
真っ赤にほてった顔で、掠れそうに小さな声で阿部が花井の耳元にささやいて。
そのまま首にしがみついた。
うわーうわー。
どうしようこいつちょうかわいい。
体をひねって腕をあげているせいで阿部の腰がちらちらと見える。
余り日に焼けていないそこはつるりとしていて、触るとひんやり気持ち良いのを覚えていた。
「隆也ー…」
「なん、だよ」
「おまえほんとかわいい…」
「…嬉しくねえ…」
きつく抱いた阿部の身体は熱くて花井の身体も熱くて。
((溶けてしまいそうだ))
それでも良いかと、思考の隅でつぶやきが掠めた。
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