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白い、つるりとしたバスタブの感触が掌を刺す。
「ご、ほっ、けふ…」
「大丈夫かよ?」
「…ぅ゛」
「ったく、まだ出すものがあるとは凄い胃袋だなぁお前」
「うっせぇ゛…っ、」
視界がぐるぐると回っているようで酷く気分が悪い。
理由は分かりきってる、飲み過ぎだ。
アルコールの匂いが吐瀉物のそれに混ざって鼻まで届いてくる。
「あ゛ー喉痛ぇ…」
「ばーか」
「…てめ…」
「坊ちゃん今日はちょっと飲み過ぎ。理由はまぁさっき散々聞いたから分かったけど」
「うるせぇヒゲオヤジ」
「うわー何この子可愛くない…」
「フランス、水」
「しかも偉そうだし…ちょっと待ってろ」
ぶつぶつと文句を言いながらも何くれとなく世話をしてくるこいつは随分と甘い。
それこそこいつが作る硝子細工のような飴やふわふわしたメレンゲの塊でできた、スイーツくらいに。
「ほらよ」
「…ん」
水差しとグラス。
差し出されたそれを掴もうと手を伸ばすのも億劫で口を開ける。
注げ。
「………、あのさぁ坊ちゃん」
「なんだよ…みず寄越せ」
「寄越せってなんで口開けんの」
「体、動かすの怠い」
だから注げ。
逆流した胃酸で喉が焼けてひりひりする。
ごくりと唾液を飲んでみたりもしたが、やっぱりここは水だと思う。
「フランス?」
「…ぇ、あ、いや」
「何してんだよお前挙動不審だぞ」
「いや、うん…ちょっと」
「つかお前はどうでも良いから水くれよ。欲しい」
「…!」
何が可笑しいのか片手で口許を押さえて顔を背ける。
因みに水差しとグラスは器用に纏めて持っていた。
なんだこいつ。
「ふーらーんーすー」
「はいはい」
によによと嫌な笑いを浮かべて、…ひょいと水を煽った。
「お前、何して――」
ふぅ、熱い唇が触れる。
それは水気を帯びてしっとりとしていた。
(熱っぽい)
口に含んだんだろう水は少し温く、それでも熱く痛む喉には冷たくて通り抜ける感覚が気持ち良かった。
首筋に当てられた指先にするりと頭の後ろを押さえ込まれる。
厚めの舌が艶かしく動く。
蹂躙。
されて。
ちゅく、と淫らな水音をひとつ落として唇が離れていった。
「………」
「……酸っぱい」
「黙れエロオヤジ」
「えろっ…あのなぁお前さっき自分がどんな顔してたかわかってんのか?」
「知るか!」
「流石エロ大使って感じだっ…」
ごす。
「誰がエロ大使だ、誰が」
「お前だよ…つーかそんなほいほい殴るなよ…」
イラッとしたんだからしょうがないだろ。
そもそも変な事を言ったこいつが悪い、うんオレワルクナイ。
「俺の所為じゃないだろ」
「…ほんとムカつくね」
「酔ってんだよ」
「ふぅん?」
に、と。
また笑う。
「じゃ、酔った序でにお兄さんとイイコトしますか」
「変態」
「…うん、確かに今の言い方は悪かったな」
「ばぁか。…連れてけよ、」
「了解、坊ちゃん」
「坊ちゃんじゃねぇよ」
水差しとグラスはその場に置いて。(こいつの家だ、構うもんか)
軽々と抱き上げられる。(農業をやっていたからだろうか、がっしりしている)
「…………――、」
ぽつりと零した小さな本音はこいつには届かない。
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