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目が覚めたら日本がいなかった。
「……日本…?何処、だい?」
「…、…起きられたんですか」
「うん…ちょっとね」
「縁側ですよ」
隣りへ伸ばした手が何にも当たらなくて、ふっとイギリスが帰ってしまった晩のことを思い出した。
あの時は寂しくて泣いてしまったんだっけ。
つらつらと考えながらエンガワに出ると、ちゃんと日本がそこにいて少し安心した。
「日本、何してるんだい?」
「久し振りに煙管でもと思いまして」
そう言ってにっこりと笑う日本の手には細長い管が握られていて、先のほうからやっぱり細く煙が上がっていた。
「何だいそれ」
「煙管ですよ。アメリカさんはやられませんか」
「知らないなぁ」
「…イギリスさんが、嗜まれていたと思うんですが」
「イギリスが?」
「ええ、形は少し違いましたけど」
言いながら自然な動きで口をつける。
ふぅっと吐き出された煙の匂いが何処か懐かしい甘さを持っていた。
「…もしかして、イギリスが持ってたのってパイプかい」
「ああ…そんな名前だった気がします」
「パイプなら、そうだね、イギリスが持ってた」
吸っているところを見るのは少なかったけれど、時々寝る前に一服するのは結構見ていて綺麗だったと思う。
そういえば巻煙草を吸うフランスも、さっきの日本も綺麗な感じがしたよなぁ。
「随分形が違うんだな」
「そうですね」
「イギリスのやつは、もっとこう…短かったな。あと結構太めで」
「ああ」
そうだったかも知れません。ぽつりと日本が呟いて、遠くを見るふうにすっと目を細めた。
それから少し黙り込んで、横に置いてあった箱にかんっとキセルの端を当てた。
あかく燃える小さな塊が灰の中に落ちて、すぐに玄く立ち消えた。
「さ、寝ましょうか」
「眠くないぞ、目が覚めちゃったからね」
「…私は眠たいんですが」
「何か作ってくれよ、ココアとか」
「残念ながら我が家にはありませんね。牛乳くらいでしたら暖めますよ」
「ちぇー。じゃあ牛乳…蜂蜜落としてくれよ!」
「はいはい」
後に残ったのは紫煙ひとつ、彼のくゆらせるものに似た甘い薫り。
夜風にそれはかき消えた。
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