+++++++++++++
「…すまない…」
「構いませんから。気になさらないでください」
熱に潤む視界の中で菊がそっとほほ笑む。
かく言う自分は情けなくも風邪を引いて菊の手を煩わせている。
…まったく情けない。
氷水に浸したタオルを絞ってそっと額に乗せられる。
手つきに感じる優しさはいかにも自然で、恋人に向けているのかそれとも弟のように思っているのか、などと考えてしまう。
「つめたい…」
「眠ってください。何か食べたいものがあるなら用意しておきますよ」
「そうだな…なら、林檎を…頼めるか…?」
「林檎ですね。擂ったほうが?」
「ああ、それで…すり林檎、なんて久し振りだな」
言うと、少し笑う。
その姿はどうしようもなくたおやかだと思った。
そっ、口許に添える指先やゆるく和む目許。
大和撫子とはこういうものを指すのだろうな…
「さぁ、おやすみなさいルートさん。風邪には水分を取って寝ることが一番ですから」
「…ああ…」
普段よりもひんやりと感じる指先がそっと布団の端を整えたらしい、微かな音。
軽く手のひらでリズムをとるように菊が触れてくる感覚にゆるゆると思考が溶けていく。
「ねむりのなかではよいゆめを」
眠りに落ちる寸前、そんな声を聞いた。
PR