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ちちち、小鳥の鳴き声がする。
高くなってきた太陽を木の葉が遮って薄く影を作るひとかど。
白い、華奢な細工が施された可愛らしいテーブルにティーセットを広げて、今は紅茶が出来上がるのを待っている。
隣りで同じように紅茶を待っているのはイギリスさん。
同じように、と言っても彼女のほうはこれが習慣になっているから、やっぱり違うのだろうけれど。
(綺麗なひと)
上のほうでふたつに纏めた、所謂ツインテールの髪は濃い金色で、朝日のいろによく似た輝きをしている。
けれどもそれはこうして太陽の下で見た時の話で、屋内の人工光のなかに入ると途端に蜜色に変わる。
肌は白々と冷たげだけれど、頬は熟れた桃の柔らかな色をしているし、口唇は紅い薔薇の花びらのようだ。
楕円の形をした細いフレームの眼鏡は彼女に良く似合っていて、見る人に理知的なイメージを与えるのに一役かっている。
「日本、お茶が入ったわよ」
「有り難うございます」
紅茶を入れる手付きは繊細で、まるく整えられた爪は淡く染まっていて。
ふわんと良い香りが漂ってきて、今日も美味しいお茶なのだろうと思う。
「今日のジャムはなんですか?」
「そうね、今日はスグリにしてみたわ。…べ、別に貴女が食べたことないんじゃないかとか思った訳じゃないわよ!わたしがそんな気分だっただけよ!」
硝子越しに若葉色の瞳を窺うように揺らめかせて――ああ、なんて神秘的なんだろう――それから慌てて誤魔化す。
彼女のそんなもの言いには、最初こそ戸惑ったもののもう慣れてさらりと流せるようになった。
可愛らしいな、とも思える。
「スグリは初めてですね。イギリスさんのジャムは美味しいですから楽しみです」
褒めればぱっと花が咲いたように笑う。
こんな簡単な褒め言葉でこんなにも美しく喜ぶのは、普段からフランスさんやアメリカさんに不味い不味いと言われているからでしょう。
…実際、彼女の作ったものはあまり美味しいと言えないのだけれど。
なぜだか紅茶とジャム、それからクロテッドクリームは、確かに美味しいと言えるのだ。
「今日のスコーンは少し堅くなってしまったんですが…」
「大丈夫よ、日本のスコーンは美味しいもの」
「そう言っていただけると嬉しいです」
けれどやっぱりそれ以外は何とも言えない…凄い味だったので、お茶請けは私が作ってくることにしている。
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