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「綱吉」
彼の髪は、彼自身を表すように真っ直ぐ。
「綱吉?」
彼の声は、彼のしてきた事を表すように低く響く。
「綱吉…」
彼は。
月の光を浴びる夜の海の鮫。
「はい、なんですか?スクアーロさん」
でも、それは――
「わ、わ、わぁー!?」
ばっしゃん。
飛沫をあげながら俺の体は意に反して水に吸い込まれていく。
冷たい、水。
「…う゛お゛ぉい、大丈夫かぁ?」
「な、なんとか…コート、脱いでて良かったです…」
「だろぉ?お前は絶対ェ落ちると思ったからよぉお゛…掴まれぇ」
「ありがとうございます…」
呆れたふうに苦笑で、岸辺から手を伸ばしてくれる。
きゅっと掴むと、彼の手は思いの外暖かい。
「何で落ちたのかなぁ…」
「お前、運動神経切れてるんじゃねぇかぁ?」
「切れてませんよ!俺、一応、暗殺部隊!」
「秘書だろぉ。ボスの」
「うっ…違うんだけど否定しきれない…」
そもそもは、ルッスーリアが仕事でヴェネツィアに行って、お土産にと硝子細工のゴンドラを買ってきてくれて。
それを見ていたらゴンドラに乗りたくなったので乗りたい、と言いだしたからだ。
そうしたら此処にもある、とあっさり言われ、それならと彼を連れ出した。
彼は何故だか異様にゴンドラの運転が上手く、すいすいと進むので俺も挑戦した、結果が。
濡れ鼠。
「あ、何か情けなくなってきた」
「それはこっちの台詞だぁあ」
「でも、好きですよね?」
「…あぁ、」
ふざけるようにおどけるように訊けば、鮮やかな笑みと返事と、軽いキス。
髪をぐしゃぐしゃにするように撫ぜられる事には慣れた。
でも、その時見せる笑顔、には。
まだすこし、なれない。
「…スクアーロさん」
黒いコートの背中を流れる銀の髪は、月光。
「なんだぁ゛?」
低い穏やかな声は、波音。
「大好きです」
人殺しもマフィアも、男同士だって関係なく。
俺はどうしようもないくらいこの凛としたひとに惚れ込んでいるのだ。
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